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今月の特集

退職をきめたら

カテゴリ:今月の特集 投稿日:2015年05月08日

会社に勤めれば、いつかは会社を辞めなければいけません。

定年による退職

雇用契約期間満了による退職(契約の終了)

転職のための退職

結婚、出産、育児、介護のための退職

病気療養のための退職

一身上の都合による退職  などなど

 どのような理由であっても退職の手続きは必要です。

 

退職すると決めたときには、どうすればよいのでしょうか。黙って辞めていくわけにはいきません。

会社には就業規則があります。ほとんどの就業規則には、退職に対する手続きについても記載されていますので、必ず確認しましょう。

 就業規則がない会社においては、先輩方や、直属の上司や社長に直接聞いてみることが必要です。

〇退職は誰に申出ることで、承諾が得られるのか

〇退職したい日をいつまでに申し出ることで、退職できるのか

〇退職の承諾が得られない時は、どうしたら良いのか     などなど

また、会社によっては、「退職願」を提出するのか、「退職届」を提出するのかも決まっている場合もあります。会社の定めたフォーマットに記入するように規定されているところもあります。社会人として、会社のルールに従って退職の手続きをしていただくことをお勧めします。

 

それでは、退職願いと、退職届には違いがあるのでしょうか。

一般的には、「退職願」は退職の意志を伝えるために書くようです。

 

「退職届」は届ですから、すでに退職日が決まっている場合に書くことが多いようです。

 

退職願いであっても退職届であっても、会社に定められていないのであれば、決まったフォーマットはありませんので、縦書きでも、横書きでもどちらでもよく、手書きで書くのであれば縦書きが慣例となっています。

最近はワープロで書くことも多くなってきていますが、偽造を避けるために、自分の氏名だけは直筆で書くと、本人が書いた証明にもなります。日本の昔からの慣習で認印をすることも多いですが、絶対ではありません。ただし、押印する場合はシャチハタは避けたほうが良いでしょう。

FAXが出始めたときは、退職届をFAXで送付して問題となったとか、最近ではメールで退職届を送信するなど、様々な方法がとられているようですが、偽造やなりすましなどを防止するためにも、便箋などに書いて提出する方法がよいでしょう。

 

近年の人員不足により、退職を会社がなかなか認めてもらえないという相談があります。

 会社側が退職を受け入れてくれないという問題については、職業選択の自由に違反することになり、また、「損害賠償を請求する」などと脅して退職を拒否する場合は、強制労働の禁止(労働基準法第5条)に該当することになります。

 強制労働の禁止には罰則があり、違反した場合は、

1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金」となります。これは労働基準法一番重い罰則となっています。

 

逆に、「会社を辞めます」と言ったきり、何の手続きもせず会社に来なくなってしまう社員がいるという相談も増えています。

労働契約も契約の一つですので、口頭であっても退職の申し込みは有効です。しかし、後で「言った」「言わない」「そんなつもりで言ったわけではない」「聞いていない」などトラブルの原因にもなります。

 

(全日本件数協会事件 横浜地裁判決 昭和38930

「一旦制定された就業規則はその企業における労使双方に妥当とする制約として被用者の利益のためにも使用者を拘束するものというべきところ、被申請人の就業規則第40条に定めるところも、一方、被用者が退職するに際し、その時期、事由を明確にして、使用者に前後措置を講ぜしめて企業運営上無用の支障混乱を避けるとともに、他方、被用者が退職という雇用関係上もっとも重大な意思表示をするに際しては、これを慎重に考慮せしめ、その意思表示をする以上はこれに疑義を残さぬため、退職にさいしてはその旨を書面に記して提出すべきものとして、その意思表示を明確かつ決定的なものとし、この雇用関係上もっとも重要な法律行為に紛争を生ぜしめないようにするとともに書面による退職の申出がない限り退職者として取り扱われないことを保証した趣旨であると考えねばならない」

 

 この判例では、就業規則に「退職願を出さなければならない」と定められている場合は、退職願いが出されない限り、退職の意思表示の効力が生じないとされ、口頭による退職の意思表示を無効とされた事案です。

 口頭での退職の意思表示は、後で撤回を申し出てくることもあり、会社がどのように対応したのかでは、その撤回を受け入れなければいけない場合もあります。

 トラブルを事前に防ぐためには、社員の口頭による退職の意思表示があったときは、文書による提出を求め、それに応じない場合は、会社側が、社員の口頭による退職の意思表示に承諾したという文書の通知を出してから、退職の手続きをした方がよさそうです。

 

インターネットの書き込みなどにも、いろいろと書かれていますが

2週間前までに退職届を出せば、退職することができる」のですが、法律では、細かく決められているようです。

法律では、給与の決定方法で退職の申し込み期間が異なっていますが、判例や法解釈でも要件の統一はされていないようです。

この法律が適用されるのは、「雇用の期間を定めなかった」場合に限られるため、機関の定めがある有期雇用契約労働者には適用されないことになります。適用されないからといって、退職の申し込みを受け入れられないということではありません。

 

民法627条による社員からの雇用契約の解約の申し入れによる退職方法を「辞職」と言います。

辞職とは・・・

一定の予告期間を置くことで、社員からの一方的に労働契約を将来に向かって終了させることをいい、社員からの意思表示だけで労働契約を解約することになります。

辞職の意思表示は、使用者へ到達した時点で解約告知の効力をもちます(民法971項)ので、辞職の意思表示が相手に到達した後は撤回ができなくなります。

 97条1

 

 

(東京地判 平成9620)

「Xは、退職の意思表示を行った際、用意してきた退職届をM専務に渡さず、その後退職届を自分の机の中にしまっておいたことが認められるが、(証拠略)、X本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、Xがそのような行為を行ったのは、退職の意思表示当日及びそれ以降におけるM専務及びK社長から強い遺留を受けたXが、退職届を会社に提出することは事実上不可能であると考え、それ以上無理に会社にその受領を強いる行為に出なかったに過ぎないことが認められるのであり、これをもって、Xの本件意思表示を撤回する意思の表れであるとは解されず、他に本件意思表示の成立を妨げる事実も認められない。

Xが退職を希望した理由が、専ら経済的困窮によるもので、転職する以外には方法がなかったこと、Xが退職を考えるようになってから退職の意思表示を行うまでに約1年間あることからして、Xは十分考え尽くした上で、本件意思表示を行ったと認められる他、Xは、退職時期及び退職の意思表示を行う時期を、就業規則の規定、賃金計算上の便宜及び転職先会社における就労の開始時期等の諸事情を踏まえ、念入りに考慮して決定しており、また、本件意思表示を行った時点においては、既に転職先会社との間において就労開始の日程を取り決めていたため、Xにとって退職時期やその意思表示を行う時期を延期することは容易なことではなく、Xは、意図した退職日に各日に退職しようとの確固たる意思をもって本件意思表示を行ったと考えられることからすれば、本件意思表示は、単に、Xが、会社に対し、合意による雇用契約の申込みを行ったものではなく、Xの会社に対する平成7年1月18日付け辞職を内容とした雇用契約の解約告知であったと認めるのが相当である。
 そうすると、X・会社間の雇用契約は、本件意思表示により、平成7年1月18日付けをもって終了したことが認められる。」

 

この判例では、Xの退職の意志表示は、合意解約の申し込みではなく、辞職であり、会社にその意思表示を伝えたことによって相手に辞職の意思が伝わっているため、会社が承諾しなくても、社員Xが意思表示をした退職日において、労働契約が解約されたと判断された事案です。

 

 基本的には、社員と会社の双方が合意をして退職していただくことがトラブル防止にもつながります。この方法を合意解約と言います。

合意解約とは・・・

社員と会社の合意によって労働契約を将来に向けて解消すること合意解約といい、社員からの退職の申し込みと会社の退職の承諾の合致によって効力が生じます。そのため承諾がされる前であれば、撤回が可能となります。

 

 

(大阪地判 平成10717

「フォークリフト運転手が取引先工場内で得意先の社員に暴言を吐き、器物を毀損したなどの言動に対し、会社が休職を言い渡したところ、「会社をやめたるわ」といって帰ってしまった事案で、「辞職の意思表示は、生活の基盤たる従業員の地位を、直ちに失わせる旨の意思表示であるから、その認定は慎重に行うべきであって、労働者による退職の又は辞職の表明は使用者の態度如何にかかわらず確定的に雇用契約を終了させる旨の意志が客観的に明らかな場合に限り、辞職の意思表示と解するべきであって、そうでない場合には、雇用契約の合意解約の申し込みと解すべきである」としたうえで、確定的な意思が客観的に明らかでないとして撤回を認め、合意解約を否定した。ただし、解雇については有効とした。」

 

この判例では、社員の「会社を辞めたるわ」は辞職の意志表示でなく、労働契約の終了の申し込みであり、会社の承諾がなかったために「合意解約」にならなかったとしています。

 

(岡山地判 平成3119

「社内の業務分掌規程で従業員の任免に関する事項は労務部の分掌とされ、通常社長あての退職願が所属長に提出され、その後、本社労務部に回され、労務担当常務取締役、専務取締役によって決済承認がなされていたとの手続きを取っているバス会社では、常務取締役観光部長には退職承認をなす権限はなく、観光部長が退職願いを受理しただけでは使用者の退職承認の意志表示があったとはいえず、社員が退職願を所属長に提出したあとの退職の撤回は有効である。」

 

こちらの判例では、退職願いは受理されたが、通常の手続きにおいて、社員の退職の申し込みに対し、会社が承諾の意思表示を示していないとされました。

退職願を提出したことによって効果の生じる時期は、退職願いを受理した者が退職承認の権限をもっているかどうかで異なります。上記の判例のように、退職が承認されないからといって退職できないわけではありませんが、退職が承認されていなければ、退職は撤回できることにもなります。

 

 退職の意思表示に対して撤回をされてしまうと、次に起こる問題は、人員管理です。

社員が辞めるのであれば、人手不足による業務分担、人員確保のための求人募集や採用準備、それに伴う教育指導や配置転換などなど考えなければいけないことがたくさんあります。社員の退職に伴い、すでに新しい人財を採用していたら、理由もなく解雇することはできませんし、余計な人件費は払えないということにもなります。

承諾したと認められるには、「合意退職承諾通知書」を送付することが一番有効ですが、

★会社が文書で健康保険証と会社の鍵の返還を求めた

★会社に出勤しなくなった社員の妻に、退職手続きや私物の整理のため本人と連絡を取りたいと伝えた

という事実によって、退職の承諾の意思表示が相手に伝わっていると判断されているケースもあります。

それでは、合意解約の承諾はどのようにしたらよいのでしょうか?

①人事権をもつ会社責任者(承諾権をもつもの)を決めておく。

②確定的に退職を承諾する意思表示をする。

③退職の承諾が退職の撤回に先立つことを明確にしておく。

どのような退職の申出がなされても対応ができるよう、社内で誰がどのように対応するのか退職のルールについて定め、上記の①②③を明確に規定しておくことが必要です。また、一時保留や一時預かりとせず、速やかに決定することも必要です。

 

(参考文献)

事例でわかる問題社員への対応アドバイス:新日本法規