最近、セクハラ、パワハラ、マタハラ、モラハラなど「ハラスメント(いじめや嫌がらせ)」の言葉が飛び交っています。
職場でもほんの少しプライベートなことを聞くと「セクハラ・パワハラ」と言われるため、コミュニケーションすら取りづらくなっているということも聞きます。
上司が部下を叱るにも、言葉遣いに気を付けなければすぐに「パワハラ」と言われ、正しい注意も出来なくなってきています。でもそれは本当に「パワハラ」なのでしょうか?叱責の範囲なのでしょうか?判断は難しいところです。
パワハラをする方は熱意が高まりすぎて、、、と思う部分もあるでしょう。
パワハラをされた方は何でもパワハラになると思い込むこともあります。
今回は、先日、弁護士さんを講師に「業務命令とパワハラの限界」について教えてもらってきましたので、業務命令とパワハラの違いを考えてみたいと思います。
パワハラは法律に定義もなく、判例上の定義もないというのが現状ですが、厚生労働省(平成24年)では、パワハラを次のように定義づけています。
パワハラとはパワーハラスメントの略で、
①同じ職場で働く者に対して
②職務上の地位や人間関係など職場内の優位性を背景に
③業務の適正な範囲を超えて
④精神的・肉体的苦痛を与える または
⑤職場環境を悪化させる行為
としています。
①同じ職場で働く者に対して・・・とは
出向社員や派遣社員でも、その職場で働いているのであれば、責任が生じます。
出向社員に対しては、出向元にも出向先にも。
派遣社員に対しては、派遣元会社にも派遣先会社にも責任があります。
②職務上の地位や人間関係など職場内の優位性を背景に・・・とは
以前は上下関係(上司から部下へ)を念頭に書かれていましたが、現在は、同僚間や部下から上司へのパワハラも認定されている事例があるそうです。
部下が結託して上司に嫌がらせを行い職場から上司を追い出した、ということもパワハラに該当するということになります。
③業務上の適正な範囲を超えて・・・とは
本当にその叱責、指導が業務に必要な命令(業務命令)の範囲なのかが重要だそうです。
ここの見極めを間違えてしまうと大問題に発展してしまうことになります。
④精神的・肉体的苦痛を与える行為・・・とは
パワハラを受けた相手が苦痛を感じなければ、法律問題はなりません。
上司や同僚からの正しい叱責(自分のためになるもの)と受け取ってもらえれば、その言動がどんなに厳しいものであってもパワハラにはならないのです。ただし暴力は別です。
では、どんな行為がパワハラに当たるのでしょうか?
<パワーハラスメントの類型>
⑴や⑵は犯罪行為に値するためパワハラの概念がなくても訴えることができます。
⑶は職場にかぎらず、学校や地域でも問題になっています。
⑷~⑹の行為は線引きが難しく、指導の範囲なのか、目的や必要性を超えたパワハラなのか職場で認識をそろえて明確にする取り組みが必要のようです。
例>上司が部下を叱責したり、始末書などの作成を求めたりする行為が違法となるのか?
〇叱責の必要性
不祥事を起こした従業員に対する指導監督の必要性は通常認められます。
〇叱責の相当性
叱責の目的が変わってしまってはいけません。反省し改善させることが第一です。叱責の際にはどの不祥事にたいしての叱責なのかをはっきりさせましょう。それ以上の叱責は叱責の範囲を超えていることになるかもしれません。
次に、叱責の時期や方法が相当でなければいけません。
人前で叱責すること自体が悪いわけではなく、同じミスを繰り返すと思われるとき(不祥事を未然に防ぐために)は、人前で叱責する必要もあります。
しかし、その叱責が個人を侮辱する言葉であったり、長時間にわたり同じ内容を話したり、何日も同じ叱責を繰り返すことは、裁量の濫用であり、権利の逸脱と判断されることもあるそうです。
また、叱責する時期も重要です。3年前のミスを拾い上げて指導し始めたりするのは、時期が相当でないと判断されます。叱責するなら不祥事をした都度の方がよいということになります。
〇始末書の必要性
始末書とは事実関係に加えて責任の所在や反省の意思を記載させるものです。
始末書を出させることは、その処分によって必要性が変わってきます。
戒告やけん責による懲戒処分に付随して書かせる場合は、業務命令となりますので、その命令に従わず始末書を提出しない場合は、業務命令違反となり解雇事由にも該当することになります。
しかし、懲戒処分としない場合は、権限の範囲を逸脱したものとされることもあります。
<判例>東京地裁八王子支部平成2年2月1日
事案の概要
①Y会社(製造業)において有給休暇の申請は製造長か作業長に対して直接行うことと就業規則に規定してあったが、従業員Xは事務所の書記に電話して有給休暇の申請を製造長か作業長に伝言することを依頼した。この行為について、上司AはXに対して改めるように指示し、その後3日間にわたって執拗に始末書の提出を求め続け、他の事由と合わせて10通の始末書の提出を求めた。なお、Y社において有給休暇の申請の際、書記に伝言を依頼することは事実上行われていた。
②Xの作業打切りと後片付けをする時刻が早すぎることについて作業長から何度かXに注意がされていたが改善されなかったため、作業長からAに報告が行われた。これに対しXは後片付けに時間がかかるからだと反論した。Aは後片付けとしてXが行っていることをXに再現させてその時間を計測しようとしたが、Xがそれに応じなかったため、Aが自らXの後片付け行為をして時間を計測し、作業日報に記した。翌日、AはXを作業台に連れていって、前日の後片付けを再現するように執拗に求めた。
これに対してXが Y社とAを相手に損害賠償を請求した。
裁判所の判断
Aには部下である作業員を指導監督する権限があるから、これに基づいてXを叱責したり、始末書の提出を求めたりすることは、そのこと自体が違法性を帯びるものではないが、Aが求めた始末書などが人事考課の対象になることが予定されておらず、業務命令としてその作成を求めたものでもないから、権限の範囲を逸脱したり、裁量権の濫用にわたる場合は違法性を有する。
本件でXが叱責された個々の事由は、いずれも叱責に値するものであり、これについて始末書などの提出を求めたAの行為はおおむね正当であったが、上記2つの行為(始末書を執拗に求め続けたことと、後片付けの再現を執拗に求めたこと)については権限の範囲を逸脱するものであるとして、減額された分の賃金と慰謝料15万円の支払いを認めた。
このように、叱責を行うことと始末書の提出をさせること自体は正しいとしつつ、その方法が範囲を逸脱しているとされました。何でも「〇〇すぎる」のはよくないということのようです。
先日も「セクハラ」をした社員の懲戒処分として出勤停止処分は妥当。という判決が出ました。
①懲戒処分について就業規則に記載されていたこと
②教育指導をしていかなければいけない立場であったこと
③1年以上にわたって言動が繰り返されていたこと
などが、今回の判決の要因になったようです。
http://www.sankei.com/affairs/news/150226/afr1502260047-n1.html
今回の判決では、セクハラ発言が初めて認定されました。
ハラスメントの行為を行った者が責任を負うのが大原則ですが、その者を雇用している会社にも「使用者責任」が問われます。
会社が従業員を雇用する以上、その職場環境を悪化させない義務があります。
従業員においても勤務している以上、就労義務があります。パワハラをするために会社に勤めている人はいないでしょう。
パワハラを受けたいために勤務している人はもっといないでしょう。
一人一人の認識のあり方でトラブルは防止できます。
上司だから、部下だからという立場だけでなく、職場の本来の姿を見つめなおす時かもしれません。
「ウチの職場は大丈夫かな?」と思ったら、まずはチェックしてみましょう。
厚生労働省 あかるい職場応援団ではパワハラの加害者にならないために、被害者を出さないためのチェックリストがあります。ご活用ください。
http://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/check
職場の見直しが終わったら、就業規則等の見直しも忘れずに行いましょう。また見直しただけではいけません。定期的に周知して認識を高め合いましょう。