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今月の特集

労働基準法 1

カテゴリ:今月の特集 投稿日:2016年09月10日

今月の特集をだいぶ休んでしまいました。申し訳ございません。

 

先日、ある経営者の方とお話しする機会がありました。

その経営者が

「出ている情報を知ることだけが重要なのではない、根本的なこと(どのような経緯があって、どこからどんな情報がでているのか)をもう少し踏み込んで学ぶ必要があるのではないか。今の時代は簡単に調べることができるが、表面だけでなく、その情報が出てきた背景や歴史的な事情などを知らないと本当の意味が解らくなってしまう」というお話をしてくださいました。

 私も、つい、パソコンで「検索サイト」を頼ってしまい、すぐにポチッと押してしまいますが、この検索された内容の奥の奥を知らないままでいることが多くなってしまった気がします。この言葉を聞いて社労士の受験勉強しているときに、法律用語を読むだけで頭を抱えていた時代がよみがえってきました。初心に戻って、労働基準法を読み返してみたいと思います。

 

第1弾として、労働基準法「総則」から、少しずつ解読していきたいと思います。労働基準法は、労働者を守る法律と言われていますが、この基準を知ることで、使用者自身も守ることになります。

 

「総則」はどの法律にもついているのですが、あまり読むことも少なく忘れがち。でも一番重要なことが書かれているのは確かです。

それでは、労働基準法「総則」

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労働者の労働条件を保障することを宣言したものです。

憲法25条1条「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」の精神に則ったもので、労働基準法第1条は、その趣旨を同じくするものです。

また、労働基準法の労働条件は、憲法272項の「勤労条件」と同じ意味と解されています。

「人たるに値する生活を営む」とは・・・

標準家族の生活も含めて考えること(S22.9.13 .発基17号より)とされています。

標準家族の範囲は、「その時の社会の一般通念上によって理解されるべきものである(S22.11.27 基発401)」とされています。時代によって標準家族の範囲が変わっていくことを示しています。

「労働条件の低下」とは・・・

労働基準を理由として、労働条件を低下させることはできません。

裁判においても、「意味なく労働条件を低下させることは許されない」としています。

労働基準法では、「労働基準法を理由として」労働条件を下げることはいけないと規定しています。

そのため、労働条件の低下については、社会経済情勢の変動等他に決定的な理由がある場合には、本条違反とならない(S63.3.14 基発150号)としています。

ただし、次の第2条(労働条件の決定)にも規定されているとおり、

「労働条件は、労働者と使用者が対等の立場において決定(合意)すべきもの」であるとされているので、一方的な労働条件の低下による変更(不利益変更)はできません。

労働条件の変更方法には、

①労働契約による変更・・・合意が必要、

②就業規則による変更

③労働協約による変更

があります。

 

<参考>

憲法

27条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。

2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。

3 児童は、これを酷使してはならない。

 

労働条件を低下させる場合においても、就業規則や労働協約が労働基準法以下の内容とならないようにしなければいけません。

また、社会経済情勢の変更等による労働条件を変更する場合であっても、業務上の必要性と労働者が受ける不利益の程度の比較をしていかなければいけません。

〇合理的な理由の基準

 ①労働者が被る不利益の程度

 ②会社の必要性の内容と不利益の程度

 ③変更内容自体の相当性

 ④代償措置その他の労働条件の改善状況

 ⑤労働組合などとの交渉の経緯

 ⑥他の労働組合、他の従業員の対応

 ⑦同種事項に関する社会一般の状況

 ⑧特に大きな不利益を被る者への経過措置(激変緩和措置)

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契約自由の原則から、契約当事者は、自由に契約内容を決めることができます。しかし、労働契約においては、使用者が優位に立つことが多いため、不平等を解決するため「対等の立場において決定すべき」と明言しています。

また、第2条は、労働条件の決定及びこれに伴う当事者の事務に関する一般的原則を宣言しているものなので、労働基準監督機関においても、労働基準法各本条の規定に抵触しない限りその権限を行使すべきものではない(通達)。としています。

労働協約とは、使用者と労働組合が労働条件等について、書面に作成し、当事者の証明又は記名押印したものです。労働者の過半数に達しない労働組合と締結した場合でも労働協約になります。

就業規則は、使用者が労働者の過半数を代表する者の意見又は過半数で組織する労働組合の意見を聞いて定めたものです。過半数労働者又は労働組合の意見は反対意見でも構いません。就業規則の詳細については後日。。

労働契約は、労働者個人と使用者が労働条件について、個別に結ぶ契約を言います。

 

<参考>通達全文

労働基準法第2条は労働条件の決定及び之に伴う両当事者の義務に関する一般的原則を宣言する規定であるにとどまり、監督機関は右の一般的原則を具体的に適用すべき責務を負う機関ではないので、労働協約、就業規則又は労働契約の、就業規則又は労働契約の履行に関する争いについては、それが労働基準法各本条の規定に抵触するものでない限り、監督権行使に類する積極的な措置をなすべきものではなく、当事者間の交渉により、又はあっせん、調停、仲裁等の紛争処理機関、民事裁判所等において処理されるべきものであること(S63.3.14 基発150号)

 

契約自由の原則とは・・・私的自治の原則を契約に特化して表現した原則として、次のような契約の自由が認められています。

①契約をするか否かの自由

②どのような契約をするかの自由

③誰と契約をするかの自由

④どのような方式で契約をするかの自由

 

契約自由の原則から、労働契約も自由に行うことができますが、労働基準法を下回る契約はできません。なぜなら、労働基準法は、労働条件の最低基準を定めている法律だからです。

 

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憲法14条「法の下の平等」をふまえ、労働者に対する労働条件の差別的取り扱いを禁止したものです。この条文には、罰則が適用されます(6か月以下の懲役、又は30万円以下の罰金)

「労働者の国籍」・・・

労働基準法では、国籍を問われることはありません。日本国籍でない外国人においても、日本で働いていれば、労働基準法は適用されます。もちろん不法入国して働いていても、労働者には変わりありませんので適用されます。

「信条又は社会的身分」とは・・・

信条とは教的又は政治的信念のことを言います。

社会的身分とは、生来(生まれながら)の身分を言います。(S22.9.13 発基17号)

社会的身分についての詳しい定義としては、

a)出生によって決定され、自己の意思で変えられない社会的な地位

b)社会において後天的に占める地位で一定の社会的評価を伴うもの

c)広く社会においてある程度継続的に占めている地位など

があります。現在においても、日本に限らず社会的身分による差別は無くなっていないことがとても悲しいですね。

雇用形態による正社員であるとか、パート社員であるということは社会的身分には該当しません。

「その他の労働条件」とは・・・

解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件をすべて含む労働者の職場での一切の待遇を言います。(S63.3.14 基発150)

「その他の労働条件」には採用(雇い入れ)に関する件は含まれていません。

S27.2.22 十勝女子商業事件の最高裁判例によると、

「校内において政治活動をしないことを条件として教師に採用された者が、政治活動の自由を禁止する契約の特約部分は”自己の自由な意思”により校内において政治活動をしないことを条件として雇用された以上、【有効】である」としています。

S56.3.24 日産自動車事件では、定年年齢を男子60歳、女子55歳と定めた就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分が性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効とされた事例です。

この事例がきっかけとなって男女雇用機会均等法が設けられることになりました。

男女差別は、男女雇用機会均等法(5条~10条)で禁止されています。労働基準法でも、第4条で「男女同一賃金の原則」として性別により賃金の差別的取り扱いを禁止しています。

 この他にも、労働組合員であることを理由に差別することは、労働組合法(7)で禁止されています。

 

<参考>

憲法

14条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

 

労働組合法

第7条  使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。

   1.   労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。

   2.   使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。

   3.   労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。

   4.   労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条の十二第一項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法 (昭和二十一年法律第二十五号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。

 

男女雇用機会均等(雇用の分野のおける男女の均等なる機械および待遇の確保等に関する法律)

(性別を理由とする差別の禁止)

第5条  事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。

第6条  事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。

     1.     労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練

     2.     住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの

     3.     労働者の職種及び雇用形態の変更

     4.     退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新

(性別以外の事由を要件とする措置)

第7条  事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置であつて労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない。

(女性労働者に係る措置に関する特例)

第8条  前三条の規定は、事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。

(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)

第9条  事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。

     2.     事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。

     3.     事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法 (昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項 の規定による休業を請求し、又は同項 若しくは同条第二項 の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

     4.     妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

(指針)

第10条  厚生労働大臣は、第五条から第七条まで及び前条第一項から第三項までの規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

     2.     第四条第四項及び第五項の規定は指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第四項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。

 

労働基準法は、昭和22年に制定されていますが、読み解くといろいろな法律が絡み合っていることがわかりますね。

今回は、ここまで。

次回は、第4条、男女同一賃金の原則~

 

参考文献

憲法

労働基準法

労働基準法関係解釈例規(基発150号)

裁判所判例集